学齢期の子どもの「選択」に伴走する:経験豊富な親が考える見守りと助言のバランス
学齢期の子どもの「選択」に伴走する:経験豊富な親が考える見守りと助言のバランス
子育ては、子どもの成長段階に応じてその関わり方を変えていく必要があり、特に学齢期を迎えると、子どもを取り巻く世界が広がり、自分自身で考え、選択する機会が格段に増えてまいります。習い事の継続、放課後の過ごし方、友人関係、さらには将来の進路の萌芽など、子どもたちは日々の生活の中で大小さまざまな選択に直面します。
長年子育てをしてこられた経験豊富な親御様であれば、ご自身のお子様が幼い頃とは異なる、このような能動的な姿に成長を感じると同時に、親としてどのようにサポートすべきか、あるいはどこまで手や口を出すべきか、といった新たな戸惑いや葛藤を抱かれることもあるかと存じます。これまでの経験から、つい先回りして「こうすれば失敗しない」「こちらの方が良いだろう」といった考えが頭をよぎることもあるかもしれません。しかし、子どもが自らの力で道を切り拓いていくためには、この「選択する」というプロセスを経験することが非常に重要であると考えられます。
本稿では、学齢期の子どもが経験する「選択」という成長の機会に、親がどのように伴走するべきか、特に経験豊富な親御様が直面しやすい見守りと助言のバランスについて、共に考えていきたいと思います。
なぜ学齢期の子どもの「選択」が重要なのでしょうか
子どもが自分自身で選択し、その結果を受け止める経験は、その後の人生において非常に大切な力を育みます。
自律性と責任感の育成
自分で選んだことに取り組むことで、子どもは「自分ごと」として捉え、意欲的に関わるようになります。そして、その選択に伴う結果(成功も失敗も)を経験することで、自分の行動に責任を持つことを学んでいきます。これは、親に言われて行動するだけでは決して得られない貴重な学びです。
自己肯定感と自己理解の深化
「自分で決めて、やってみたらうまくいった」という経験は、子どもの自信に繋がり、自己肯定感を高めます。また、「これは自分に合っている」「こういうことは苦手だ」といった、自身の興味や得意・苦手に対する理解も深まります。
判断力と問題解決能力の向上
選択肢を比較検討し、何を選ぶか決定する過程、そして選択の結果が思わしくなかった場合にどう対処するかを考える経験は、論理的な思考力や問題解決能力を養います。
このように、学齢期の子どもにとって「選択」は、今後の人生を豊かに生きるための土台を築く重要な機会と言えるでしょう。
経験豊富な親が直面する見守りと助言のバランス
さて、この子どもの大切な「選択」の機会に、親はどのように関わるのが望ましいのでしょうか。経験豊富な親御様であれば、これまでの子育て経験から「これはこうした方がスムーズだ」「あの時はこうしてうまくいった(あるいは失敗した)」といった豊富な知見をお持ちのことと存じます。だからこそ、子どもの選択に対して、つい「もっと良い方法があるのに」「なぜわざわざ難しい方を選ぶのだろう」といった思いが湧き上がり、手や口を出したくなる衝動に駆られることがあるかもしれません。
見守りの姿勢を大切にする
まず大切にしたいのは、「見守る」という姿勢です。これは、文字通り何もせずに放置することではなく、子どもが自分で考え、選択するプロセスを信頼し、寄り添うことを意味します。
- まず子どもの考えを聞く: 子どもが何かを選択しようとしている時、あるいは選択に迷っている時は、まず「あなたはどうしたいの?」「どう考えているの?」と子どもの考えや気持ちを丁寧に聞き出すことから始めましょう。親の意見を先に述べるのではなく、子どもの内にある声に耳を傾けることが、子どもの自己理解と自律的な選択を促します。
- 選択肢を共に整理する: 子どもが自分で選択肢を見つけられない場合や、視野が狭まっているようであれば、「こういう考え方もあるよ」「他にこんな方法もあるかもしれないね」と、あくまで情報提供として多様な選択肢を提示するのは良いでしょう。ただし、特定の選択肢を強く推奨したり、「これが一番良い」と断定したりすることは避けるのが賢明です。
- 失敗を恐れすぎない環境を作る: 親御様ご自身が、子どもの失敗を過度に恐れない姿勢を示すことも重要です。失敗は、子どもにとって次に活かすための学びの機会であり、レジリエンス(困難から立ち直る力)を育む大切な要素です。「失敗しても大丈夫だよ」「やり直せば良いんだよ」といったメッセージを日常的に伝えることで、子どもは安心して新しいことに挑戦し、自分で選択できるようになります。ただし、安全や倫理に関わる重大な選択については、親として明確な線引きと対話を設け、責任ある判断を促す必要があります。
助言は「求められたら」、そして「寄り添う形で」
経験豊富な親の助言は、子どもにとって非常に有益な情報源となり得ます。しかし、その伝え方やタイミングが重要です。
- 「どう思う?」と問いかけを促す: 子どもが選択に迷っている時、すぐに「こうした方がいいよ」と答えを与えるのではなく、「あなたはどう思う?」「どうしたら良いか、一緒に考えてみようか?」といった問いかけで、子ども自身が助言を求める形に導くのは一つの方法です。
- 自身の経験を語る際の工夫: 親御様ご自身の経験談は、子どもにとって貴重な参考になるでしょう。しかし、「私の時はこうだったから、あなたもそうしなさい」というように、過去の成功体験や価値観を押し付ける形にならないよう注意が必要です。「私の時はこういうことで悩んだけれど、最終的にこう選択したよ。あなたの場合とは状況が違うかもしれないけれど、参考になるかな?」といったように、あくまで「一つの事例」として提示する謙虚な姿勢が大切です。
- 情報に基づいた冷静な助言: 感情的に「それは絶対にダメ!」と頭ごなしに否定するのではなく、なぜその選択が難しいのか、他の選択肢にはどのようなメリット・デメリットがあるのかなど、根拠に基づいた冷静な情報を提供することを心がけましょう。
学齢期の子どもの選択に伴走することは、親にとって「待つ」ことの忍耐や、「見守る」ことの信頼、そして「助言する」ことのバランス感覚が問われる過程と言えます。これは、親自身の経験や価値観と向き合い、それをどのように子どもに伝えていくかを再考する機会でもあります。
経験を共有し、共に考える価値
多様な子育ての形があるように、学齢期の子どもの「選択」に対する親の関わり方も一つではありません。ある家庭では、子どもに多くの選択肢を与え、そのプロセスを重視するかもしれませんし、また別の家庭では、ある程度方向性を示しながら、その中で子どもに選ばせるというスタイルを取るかもしれません。
正解が一つではないからこそ、同じように学齢期の子どもを持つ親同士が経験や悩みを共有し、互いの視点から学ぶことには大きな価値があるのではないでしょうか。「うちではこういう時に子どもにどう考えさせるか、こう工夫しています」「あの時、子どもが自分で選んだことに任せたら、こんな結果になったけれど、それはそれで良かったと感じています」といった具体的な経験談は、今まさに子どもとの関わり方に悩んでいる他の親御様にとって、大きなヒントや共感に繋がるはずです。
子どもの成長と共に変化する親子の関係性の中で、子どもが自分自身の力で「選択」し、未来を切り拓いていく力を育むために、私たち親は何ができるのか。ご自身のこれまでの経験を振り返りながら、そして他の親御様の経験にも耳を傾けながら、それぞれの家庭にとって最良の伴走の形を見つけていくことができればと願っております。