学齢期の子どもの自律性を育む:親の経験を「活かす」と「押し付けない」のバランス
学齢期の子どもの自律性育成:親の経験を「活かす」と「押し付けない」のバランス
学齢期に入り、子どもたちは少しずつ自分自身の頭で考え、行動を選択する機会が増えてきます。親として、これまでの経験や知識を子どもに伝えたい、遠回りや失敗を避けてほしいと願う気持ちは自然なことでしょう。特に私たちのように、ある程度子育ての経験を積んできた世代であれば、なおさら「こうすればうまくいくのではないか」「これは避けた方が良いのではないか」といった具体的なアドバイスが頭に浮かぶことも多いのではないでしょうか。
しかし、同時に、親の経験談や助言が、かえって子どもの「自分で考える力」や「自分で決める力」を妨げてしまうのではないか、という懸念も生じます。子どもに自律的に育ってほしいと願いつつ、どこまで手や口を出すべきか、その線引きに悩むことは、経験豊富な親だからこそ直面する課題かもしれません。
この記事では、学齢期の子どもの自律性を育む上で、親の豊富な経験をどのように「活かす」のか、そしてどのように「押し付けない」バランスを取るのかについて考えてみたいと思います。
なぜ親は経験を伝えたくなるのか
子どもに自分の経験を伝えたいと思う背景には、いくつかの理由があります。
まず、「良かれと思って」という純粋な気持ちがあります。自分が苦労して得た知恵や、成功・失敗から学んだ教訓は、子どもにとって有益な情報だと考えます。また、子どもが不必要な困難に直面するのを避けさせたい、できるだけスムーズに物事を進めてほしいという保護的な感情も強く働きます。自分が通ってきた道だからこそ、先回りして道を示してあげられると考えてしまうこともあるでしょう。
これらの親心は決して間違ったものではありません。しかし、その伝え方やタイミングによっては、子どもが自分で考え、試行錯誤する貴重な機会を奪ってしまう可能性も内包していることを理解しておく必要があります。
親の経験談が子どもの自律性を妨げる可能性
親が良かれと思って提供する経験談やアドバイスが、意図せず子どもの自律性を妨げてしまうのはなぜでしょうか。
一つには、自分で考えるプロセスをショートカットさせてしまうことが挙げられます。親がすぐに答えや最も効率的な方法を示してしまうと、子どもは「どう考えたら良いか」「どのような情報が必要か」といった、問題解決に必要な思考プロセスを経験する機会を失います。
また、失敗から学ぶ機会を奪うことにも繋がります。自律性は、成功体験だけでなく、失敗から立ち直り、次に活かす経験を通してこそ育まれます。親が先回りして失敗を全て防いでしまうことは、子どもがレジリエンス(回復力)や問題解決能力を身につける機会を奪うことになります。
さらに、親の価値観や成功体験に子どもを縛り付けてしまう可能性も否定できません。時代は変化し、社会環境も親が子どもの頃とは大きく異なります。親の成功体験が子どもにとっての成功体験になるとは限りませんし、親が選ばなかった道を子どもが開拓する可能性もあります。親の経験談を絶対的な「正解」として提示することは、子どもの多様な可能性を狭めてしまうリスクを含んでいます。
経験を「活かす」と「押し付けない」のバランスを取るために
では、親はどのように自身の経験を子どもに伝えれば、子どもの自律性を尊重しつつ、有益な情報を提供できるのでしょうか。
1. タイミングと伝え方を見極める
一方的な「こうしなさい」「私の時はね」といった助言は控えめにし、子どもが何かで悩んでいる時、あるいは助けを求めてきた時に、対話の一部として経験談を語るようにします。具体的なエピソードとして、「私も以前、こういうことで悩んだことがあったんだ。その時、こう考えて、こんなことを試してみたら、こういう気づきがあったよ。」のように、あくまで親自身の個人的な経験として話すことが重要です。アドバイスというよりも、一つの視点や選択肢を提示するイメージです。
2. 子どもの思考プロセスを尊重する
子どもが何か問題に直面した時、すぐに解決策を与えるのではなく、まずは子どもの考えを聞いてみます。「どうしてそう思ったの?」「もしこうしたら、どうなると思う?」といった問いかけを通して、子ども自身が考えを深めるサポートをします。親は答えを教えるのではなく、子どもが答えにたどり着くための「問い」を提供することに注力します。
3. 経験談を「正解」ではなく「選択肢」として提示する
親の経験談は、あくまで数ある選択肢の中の一つであることを明確に伝えます。「私の時はこういう方法があったけれど、今は他にも色々なやり方があるかもしれないね」「あなたが一番やりやすい方法を試してみるのが良いと思うよ」のように、子ども自身が最適な方法を選べる余地を残します。親の経験はあくまで「参考情報」であるというスタンスが大切です。
4. 失敗を恐れず見守る姿勢を持つ
子どもが失敗しそうな道を選ぼうとしている時、それを止めるのは親にとって大きな葛藤です。しかし、子どもが自分で選択し、その結果としての失敗から学ぶ経験は、自律性を育む上で非常に価値があります。安全に関わることでない限りは、ある程度のリスクを負って見守る勇気も必要かもしれません。そして、もし子どもが失敗した時には、「だから言ったでしょう」ではなく、「大変だったね。そこから何を学べそうかな?」と一緒に振り返り、立ち直りをサポートする存在であることが重要です。
5. 親自身の不完全さや失敗談も共有する
親も完璧ではないという姿勢を見せることは、子どもが安心して自分の弱さや失敗を認め、親に相談することに繋がります。親の成功談だけでなく、率直に自身の失敗談や、どうやってそれを乗り越えたかのプロセスを話すことは、子どもにとってより人間的で、共感を呼ぶ経験の共有となります。
経験共有が親子の繋がりを深める可能性
親が一方的な助言者ではなく、自身の経験を正直に語る存在となることは、親子の間に新たな対話のきっかけを生み出します。子どもは親の過去を知ることで、親をより身近な一人の人間として感じられるようになります。また、親が自分の経験を語る中で、自身の価値観や子育て観を改めて見つめ直す機会にもなります。
学齢期の子どもの自律性育成は、親にとって見守る勇気と、適切な距離感を学ぶプロセスでもあります。自身の豊富な経験は、子どもの成長をサポートする貴重な財産となりえますが、それをどのように伝えるか、あるいは伝えずに見守るか、そのバランスを常に意識することが大切です。完璧なバランスは存在しないかもしれません。しかし、子どもとの対話を重ねながら、共に最適な関わり方を探していくプロセスそのものが、親子の信頼関係を深め、子どもの健やかな自律性を育むことに繋がるのではないでしょうか。
他のご家庭では、学齢期のお子さんの自律性を育むために、親御さんの経験をどのように伝えていますか?あるいは、敢えて伝えないようにしていることはありますか?皆さんの経験や工夫を共有いただけたら嬉しく思います。