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学齢期の子どもが話したくなる家庭の雰囲気:親の「聞く力」を深める視点

Tags: 学齢期, 子育て, コミュニケーション, 親子関係, 聞く力, 家庭環境

学齢期の子どもが話したくなる家庭の雰囲気:親の「聞く力」を深める視点

子どもが成長し、学齢期に入ると、親子のコミュニケーションの形は自然と変化してまいります。幼い頃のように何でも話してくれた状態から、学校での出来事や心のうちを話す頻度が減ったと感じる方もいらっしゃるかもしれません。これは子どもが親から精神的に自立していく上で自然な過程であり、喜ばしい成長の一側面でもあります。

しかし同時に、「うちの子は学校でどう過ごしているのだろうか」「何か悩みはないだろうか」といった、親としての懸念や不安が生まれることもあるかと存じます。経験豊富な親御さんほど、これまでの子育て経験から、子どもが抱え込むことの難しさや、適切なタイミングでのサポートの重要性を理解されているからこそ、なおのことそのように感じられるのかもしれません。

子どもが思春期に向けて内面を育んでいくこの時期に、親ができることの一つに、「子どもが話したいと思ったときに、安心して話せる家庭の雰囲気をつくり、親が耳を傾ける『聞く力』を深めること」があると考えられます。本記事では、学齢期の子どもとの良好なコミュニケーションのために、家庭で意識したい雰囲気づくりと、親の「聞く力」について掘り下げてまいります。

子どもが「話しても大丈夫」と感じる家庭の雰囲気とは

子どもが親に何かを話そうと思うとき、そこには「話しても否定されない」「頭ごなしに叱られない」「話を急かされない」「自分の気持ちを受け止めてもらえる」といった安心感が不可欠です。学齢期の子どもたちは、自分の考えや感情を言語化する力がついてくる一方で、友達関係や学校生活で複雑な感情を抱えることも増えます。

このような時期に、家庭が子どもにとっての安全基地であることは、その健全な成長にとって非常に重要です。例えば、子どもが学校で嫌なことがあったと話そうとしたときに、親が「そんなことくらいで」「あなたの〇〇が悪いんじゃないの」といった否定的な反応を示したり、すぐに解決策や正論を説いたりすると、子どもは次第に話すことをためらうようになります。

まずは、子どもが話し始めたら、たとえその内容が些細なことや、親には理解し難いことであったとしても、一旦全てを受け止める姿勢が大切です。「そうだったんだね」「あなたはそう感じたんだね」といった、共感や理解を示すシンプルな言葉が、子どもにとっては「聞いてもらえている」という実感につながります。

また、親自身の心と時間の余裕も、家庭の雰囲気づくりに影響します。親が常に忙しなく、イライラしている様子を見せていると、子どもは「話しかけてはいけない」と感じてしまうことがあります。もちろん、親も一人の人間として、常に穏やかでいることは難しいかもしれません。しかし、子どもと向き合う数分間だけでも、意識的にスマートフォンから離れる、目を見て話すといった小さな工夫が、子どもにとっては大きな安心感となることがあります。

親の「聞く力」を深める具体的な視点

「聞く力」とは単に子どもの言葉を耳で聞くことだけを指すのではありません。子どもの表情、声のトーン、仕草など、非言語的なサインからも何かを読み取ろうとする姿勢や、子どもが話すペースに合わせる忍耐力も含まれます。

具体的な「聞く力」を深める視点として、いくつか考えてみましょう。

  1. 最後まで耳を傾ける: 子どもが話し始めたら、途中で話を遮ったり、先回りして結論を推測したりせず、最後まで聞くことを心がけます。親としては早くアドバイスをしてあげたいという気持ちになるものですが、まずは子どもが自分の思いを言葉にするプロセスを見守ることが重要です。
  2. 共感を示す: 子どもの気持ちに寄り添う言葉を挟みます。「それは辛かったね」「悔しかったね」など、子どもの感情を代弁したり、受け止めたりする言葉は、子どもが「自分の気持ちを分かってもらえた」と感じるために有効です。たとえ親自身の考えと異なっていても、まずは子どもの感情そのものを否定しないことが出発点です。
  3. 「なぜ?」ではなく「どう感じた?」と問いかける: 子どもが何か出来事について話したとき、「なぜそうなったの?」と原因追及をするよりも、「そのとき、あなたはどう感じたの?」と感情や考えに焦点を当てた問いかけをすることで、子どもは自分の内面を掘り下げて話すようになります。
  4. アドバイスは求められるまでしない: 多くの場合、子どもは具体的な解決策よりも、自分の話を聞いて、気持ちを受け止めてほしいと感じています。親がすぐに「こうしなさい」「それは間違っている」とアドバイスをしてしまうと、子どもは「話しても結局は親の意見を押し付けられるだけだ」と感じ、話す意欲を失う可能性があります。「何か私に手伝えることはある?」と尋ねたり、子ども自身に「あなたはどうしたいと思う?」と問いかけたりすることで、子どもが自分で考え、親にサポートを求める余地を残すことができます。
  5. 話す機会を意識的に作る: 食事中や入浴中、寝る前の時間など、親子でリラックスできる時間帯に、何気ない会話をすることを習慣にします。「今日一番面白かったことは何?」といった軽い問いかけから始め、子どもが話し始めたら耳を傾けるようにします。必ずしも毎日深い話をする必要はありません。日常のささやかな会話の積み重ねが、子どもが安心して話せる関係性の土台となります。

経験豊富な親だからこそできること

学齢期の子育てを経験されている親御さんは、これまでに様々な子どもの成長段階や課題に直面し、乗り越えてこられた経験をお持ちです。子どもが親に話さなくなる時期があることも、反抗期があることも、友だちとの関係で悩むことがあることも、知識としては理解されていることでしょう。

しかし、実際に自分の子どもがそのような状況になったとき、親自身の経験や価値観が邪魔をして、子どもの話を「正しく評価」したり、「自分の経験に基づいた最善策」を押し付けたりしたくなる衝動に駆られることがあるかもしれません。

ここで大切なのは、親自身の経験を活かしつつも、それを子どもにそのまま当てはめるのではなく、子どもの個性や現代の社会環境の違いを理解しようと努める視点です。親が「あの時、私はこうして乗り越えたから、あなたもそうしなさい」と言うのではなく、「あの時、私はこんなことで悩んだり、こんな風に感じたりしたことがあったよ。あなたは今、どう感じているの?」と、親自身の経験を「語る」ことで子どもの共感を促したり、「聞く」ことで子どもの内面を引き出したりする姿勢が、この時期の親子関係には有効であると考えられます。

子どもが何も話してくれない日があっても、焦る必要はありません。子どもは親が見ていないところで、様々なことを感じ、考え、学んでいます。親ができるのは、子どもが「話したい」と思ったその瞬間に、いつでも安心して着地できる「場」(家庭の雰囲気)と「人」(耳を傾けてくれる親)であり続けることです。

まとめ:耳を傾けることから始まる信頼関係

学齢期の子どもとのコミュニケーションは、幼少期とは異なる深さと難しさがあります。子どもが自立へと向かう大切な時期だからこそ、親は「話させる」のではなく、「話したくなる」ような家庭の雰囲気づくりと、子どもの言葉にならない声にも耳を澄ませる「聞く力」を意識することが重要です。

これは一朝一夕に身につくものではなく、親子共に試行錯誤しながら築き上げていくものです。すぐに成果が見えなくても、根気強く、子どもに関心を持ち続ける姿勢が、長期的な信頼関係へと繋がります。

学齢期の子育てにおいて、このようなコミュニケーションの課題にどのように向き合っているか、他のご家庭の工夫や経験談もきっと参考になることでしょう。親自身の経験を振り返りつつ、このテーマについて他の親御さんと情報交換をしてみるのも良い機会になるかと存じます。

「聞く力」を深めることは、子どもとの関係だけでなく、親自身の成長にも繋がる視点です。完璧を目指すのではなく、今日から少しずつ、子どもの声に耳を傾ける時間を大切にしてみてはいかがでしょうか。