学齢期の子どもの「非認知能力」を家庭で育む視点:経験を力に変える親の関わり
学齢期の子どもの「非認知能力」を家庭で育む視点:経験を力に変える親の関わり
お子様が学齢期に入り、日々の学習や集団生活の中で様々な成長を見せる一方で、親としてその成長をどのようにサポートしていくべきか、改めて考えさせられる場面も多いかと存じます。特に、学力や成績といった数値化しやすい能力だけでなく、近年注目されている「非認知能力」を家庭でどのように育んでいくかに関心をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
長年子育てをしてこられた皆様であれば、お子様が壁にぶつかりながらも乗り越えたり、友達と協力して何かを成し遂げたりする姿を通して、教科書には載っていない大切な力を育んでいることを実感されていることと存じます。本記事では、学齢期という時期に焦点を当て、家庭でできる非認知能力の育み方について、これまでの経験を活かせる視点から考察してまいります。
非認知能力とは何か、なぜ学齢期に大切なのか
非認知能力とは、意欲、粘り強さ(グリット)、協調性、自制心、自己肯定感など、数値では測りにくい個人の内面的な特性や社会性と関わる能力を指します。これらの能力は、認知能力である学力と同様、あるいはそれ以上に、社会に出てからの成功や幸福度、困難への対処能力に大きく影響すると言われています。
学齢期は、子どもが家庭という小さな世界から一歩踏み出し、学校や地域社会といった多様な集団の中で生活する時間が増える時期です。この段階で、自己の感情を調整したり、他者と協力したり、目標に向かって努力したりといった非認知能力が育まれることは、学習への主体性はもちろんのこと、良好な人間関係を築き、将来の自立に向けた基盤を形成する上で非常に重要になります。
家庭が非認知能力を育む基盤である理由
学校生活は非認知能力を育む貴重な場ですが、その土台となるのはやはり家庭での日々の経験です。家庭は、子どもが最も安心できる環境であり、失敗を恐れずに挑戦し、様々な感情を表現し、親との関わりを通じて自己を確立していく場です。
学齢期の子どもは、幼少期に比べて親からの直接的な指示や手助けが減り、自分で考えて行動する機会が増えます。親は、これまでの子育てで培った経験を活かし、子どもが自ら非認知能力を育むプロセスを、一歩引いた視点から見守り、適切なタイミングでサポートすることが求められます。
学齢期の子どもの非認知能力を家庭で育む具体的な視点
非認知能力は、特定のドリルや習い事だけで身につくものではなく、日々の生活の中での経験を通じて自然と育まれるものです。学齢期の子どもとの関わりの中で意識したいいくつかの視点をご紹介します。
1. 日常生活の中での「役割」と「責任」
学齢期になると、家庭内で担える役割が増えてきます。例えば、食事の準備や後片付け、洗濯物を畳む、掃除をする、といったお手伝いです。これらを単なる手伝いとしてではなく、「家族の一員としての役割」「自分の仕事」として任せることで、責任感や貢献意欲が育まれます。上手くいかないことがあっても、すぐに手を出すのではなく、どうすればできるかを一緒に考えたり、励ましたりすることが大切です。
2. 挑戦と失敗、そして再挑戦の機会
新しいことに挑戦することは、粘り強さや困難への対処能力を育みます。学校の勉強でも、習い事でも、遊びでも構いません。子どもが何か「やってみたい」と言ったときに、安全に配慮しつつ、まずは挑戦させてみましょう。失敗したとしても、それは成長の機会です。「なぜ上手くいかなかったのだろう?」「次はどうしたら良いかな?」と一緒に振り返り、再挑戦を促すことが、失敗を恐れずに粘り強く取り組む姿勢を育みます。親自身の失敗談や、そこからどのように学びを得たかを話すことも、子どもにとっては学びとなります。
3. 感情の共有と受容
学齢期は感情の起伏が大きくなる時期でもあります。嬉しい、楽しいといったポジティブな感情だけでなく、悔しい、悲しい、腹立たしいといったネガティブな感情も経験します。これらの感情を親に安心して話せる関係性を築くことが重要です。子どもの感情を否定せず、「そう感じたんだね」とまずは受け止める姿勢を示しましょう。その上で、その感情にどう向き合っていくかを一緒に考えることは、自己理解や感情調整能力を高めることに繋がります。
4. 多様な人との関わりと経験
学校だけでなく、地域の活動や親戚との交流、家族旅行など、家庭外での多様な人との関わりや経験は、協調性やコミュニケーション能力、多様な価値観を理解する力を育みます。親が積極的に地域活動に参加したり、様々な背景を持つ人々と交流する姿を見せることも、子どもにとっては学びとなります。他の家庭がどのように地域や多様な人々と関わっているのかを知ることも、自身の家庭での取り組みを考えるヒントになるかもしれません。
5. 親自身の経験を「物語」として共有する
経験豊富な親御さんには、これまでの人生で培われた多くの知恵や経験があります。それらを一方的なアドバイスとして押し付けるのではなく、「お父さん(お母さん)が子どもの頃、こんなことがあってね…」「こういうとき、私はこう考えたんだ」といった「物語」として語りかけることで、子どもは親を身近に感じながら、多様な価値観や困難への対処法を学ぶことができます。自分の経験が子どもの成長に繋がるという実感は、親自身の自己肯定感にも繋がるのではないでしょうか。
まとめ:子どもと共に親も学び続ける視点
非認知能力の育成は、子どもが社会に出て自立し、変化の激しい時代をしなやかに生き抜くための大切な贈り物です。学齢期という時期は、子どもが主体性を発揮し始める重要なフェーズであり、親はその伴走者として、これまでの経験を活かしながら、見守り、励まし、共に考える姿勢が求められます。
ご紹介した視点は、数ある可能性の一部に過ぎません。子どもの個性や家庭環境によって、最適な関わり方は異なります。大切なのは、「こうしなければならない」と固定的に考えるのではなく、お子様の様子をよく観察し、コミュニケーションを取りながら、ご家庭ならではの非認知能力の育み方を見つけていくプロセスそのものにあるのではないでしょうか。
この「親子のきずな広場」には、様々な子育ての経験を持つ親御さんがいらっしゃいます。他のご家庭では、非認知能力を育むためにどのようなことをされているのか、あるいは、お子様のどのような姿を見てその成長を感じるのか、そういった経験を共有し合うことが、皆様自身の気づきや、新たな取り組みへのヒントに繋がることを願っております。