親の「指示」から「問いかけ」へ:学齢期の子どもの判断力を引き出す対話
学齢期の子どもたちは、社会との関わりが深まり、自分自身で考え、様々な状況に対して判断を下す機会が増えてきます。この時期に「自分で考え判断する力」を育むことは、将来的な自立や問題解決能力の基盤となるため、多くの親御さんが関心を寄せているテーマかと存じます。特に、幼少期の子育て経験を経て、学齢期特有の課題に直面されている親御さんにとって、この力をどのように育むかは、日々の関わりの中で試行錯誤されている点かもしれません。
なぜ、今、判断力を育むことが重要なのか
現代社会は変化が速く、多様な情報が溢れています。子どもたちが将来、予測困難な状況の中でも主体的に生き抜くためには、与えられた情報や指示に従うだけでなく、自ら考え、状況を分析し、より良い選択をする判断力が必要不可欠です。学校教育においても、思考力や判断力を重視する傾向が高まっており、家庭でのサポートの重要性が増しています。
「指示」から「問いかけ」への関わり方の転換
私たちはつい、子どもに効率よく、あるいは安全に動いてほしいという思いから、「〇〇しなさい」「△△はダメ」と指示を出してしまいがちです。特に経験を積んだ親御さんほど、自身の経験から「こうすれば間違いない」という道筋が見えているため、先回りして指示を出してしまうこともあるでしょう。しかし、指示は確かに即効性がありますが、子どもが自分で考えるプロセスを奪ってしまう側面も持ち合わせています。
では、どのように関われば、子どもの判断力を引き出すことができるのでしょうか。ここで有効なのが、「問いかけ」を中心とした対話への転換です。指示ではなく、子ども自身に考えさせるような問いを投げかけることで、子どもは立ち止まり、頭の中で情報を整理し、選択肢を検討し、判断に至るという一連の思考プロセスをたどります。
判断力を引き出す「問いかけ」の実践
具体的な問いかけは、状況によって様々ですが、いくつかのポイントがあります。
- オープンクエスチョンを用いる: 「はい」「いいえ」で終わる質問ではなく、「どう思う?」「なぜそう考えたの?」「他にはどんな方法があるかな?」など、答えが広がっていく質問を心がけます。
- 選択肢を提示し、それぞれの結果を考えさせる: 例えば、「今日のおやつ、AとBどっちにする? Aにしたらどんな良いことがあるかな? Bにしたら?」のように、単に選ばせるだけでなく、それぞれの選択がもたらす結果について考えさせます。
- 多角的な視点を持つ問いかけ: 「もし〇〇だったら、どうなると思う?」「他の人はどう感じるかな?」など、自分以外の視点を取り入れて考えさせる問いかけも有効です。
- すぐに正解を教えない: 子どもが少し立ち止まっても、すぐに答えや指示を出さず、考える時間を尊重します。考えに行き詰まっているようであれば、「ヒントを一つ出すとすればね…」のように、思考を助けるさりげないサポートに留めます。
こうした問いかけは、日々の些細な出来事の中にも取り入れることができます。今日の洋服選びから、友達との関わり方、宿題の進め方まで、様々な場面で「どうしたい?」「どうすればうまくいくと思う?」といった問いかけを重ねることが、子どもの考える力を育む訓練となります。
判断の「失敗」をどう捉えるか
子どもが自分で考え判断した結果、必ずしもうまくいくとは限りません。時には失敗することもあるでしょう。ここで親がどのように関わるかが、子どもの次の判断への意欲に大きく影響します。
失敗した時こそ、責めるのではなく、「なぜこうなったんだろうね」「次はどうすればもっとうまくいくかな?」と一緒に原因を探り、次に活かすための学びを得る機会と捉えることが重要です。失敗は悪いことではなく、学びのための貴重な経験であるというメッセージを伝えるようにします。親自身の失敗談を共有することも、子どもが失敗を恐れずに挑戦する勇気を持つ助けになるかもしれません。
親子の対話の質を高めるために
判断力を育む問いかけは、親子の信頼関係と、安心して話せる対話の環境があってこそ成り立ちます。子どもが自分の考えを率直に話せるように、親はまず子どもの話を真剣に聴く姿勢を示すことが大切です。子どもの意見が自分と違っていても、頭ごなしに否定せず、「なるほど、そういう考えもあるんだね」と一度受け止めるゆとりを持ちたいものです。
また、親自身が忙しさや感情に任せて一方的なコミュニケーションになっていないか、時折振り返ることも必要です。落ち着いたトーンで、子どもが理解しやすい言葉を選び、子どもの目を見て話すといった基本的な関わり方が、対話の質を高めます。
長期的な視点での伴走
学齢期の子どもがすぐに素晴らしい判断力を身につけるわけではありません。これは、試行錯誤を繰り返しながら、長い時間をかけて育まれる力です。親は「すぐに成果が出なくても大丈夫」という長期的な視点を持ち、忍耐強く伴走していく姿勢が求められます。
私たち親自身もまた、子育てを通して日々新たな発見や学びを得ています。子どもが自分で考え判断する姿を見ることは、親にとっても成長の機会となります。他の親御さんは、日々の生活の中でどのような工夫をされているでしょうか。お互いの経験を共有し合うことは、それぞれの家庭に合った「問いかけ」や「伴走」のヒントを見つけることに繋がるかもしれません。
この記事が、学齢期のお子さんの判断力を育むための日々の関わり方について、改めて考えるきっかけとなれば幸いです。