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学齢期の子どもが直面する葛藤:親ができる「聴く」と「待つ」の寄り添い方

Tags: 学齢期, 葛藤, 親子関係, コミュニケーション, 寄り添い

学齢期の子どもが直面する葛藤にどう寄り添うか

学齢期に入ると、子どもたちは家庭という安全な場所から一歩踏み出し、学校生活や習い事、地域との関わりの中で、多様な人間関係や新たな課題に直面するようになります。この時期は、自己認識が芽生え、周りの期待や社会のルールを意識し始める一方で、自分自身の内面とも向き合う大切な成長の過程です。

経験豊富な親御さんであれば、お子様が時に、言葉にならないような、あるいは言葉にしたくないような内面的な葛藤を抱えている様子に気づかれることがあるかもしれません。それは、友達との関係における微妙なすれ違いであったり、学習内容への戸惑いであったり、自分の得意・不得意に対する悩みであったり、あるいは将来に対する漠然とした不安であったりします。

親としては、我が子が困難に直面しているのを見ると、つい「何があったの?」「こうすれば大丈夫だよ」と、すぐに原因を突き止め、解決策を提示したくなるものです。しかし、学齢期の子ども、特に思春期が近づくにつれて、親が与える「正解」や「アドバイス」が、必ずしも子どもの心に届くとは限りません。むしろ、子どもが自分自身で考え、感情を整理し、乗り越える力を育む機会を奪ってしまう可能性も考えられます。

葛藤への「聴く」という寄り添い方

子どもが内面的な葛藤を抱えている時、親ができる最も基本的で、そして時に最も難しい寄り添い方の一つが「聴く」ことです。ここでいう「聴く」とは、単に耳を傾けるだけでなく、子どもの言葉の裏にある感情や、言葉にならない思いに心を寄せ、理解しようと努める姿勢を指します。

子どもが話したがらない時、あるいはうまく言葉にできない時もあるでしょう。そのような時には、無理に話させようとするのではなく、まずは子どもが安心して感情を出せるような雰囲気を作ることが大切です。静かに隣に座っている、一緒に過ごす時間を作る、といった物理的な距離の取り方も、子どもにとっては安心感に繋がることがあります。

もし子どもが話し始めたら、途中で遮らず、最後まで耳を傾けてください。「それは大変だったね」「そういう風に感じたんだね」といった共感の言葉や、子どもの言葉を繰り返すことで、「あなたは聞いてもらえている」という安心感を与えることができます。安易な励ましや、親自身の経験談を語る前に、まずは子どもの「今」の気持ちに寄り添うことを優先します。

また、言葉だけでなく、表情や声のトーン、態度といった非言語的なサインからも、子どもの内面を読み取ろうとすることも重要です。何かにつまずいている様子が見られたら、「何か手伝えることはある?」と声をかけるのではなく、「最近、少し元気がないように見えるけれど、何か気になることでもある?」といった、子どもの内面に寄り添う問いかけが有効な場合があります。

葛藤への「待つ」という寄り添い方

子どもが葛藤を乗り越えるためには、自分自身で考え、答えを見つけ出す時間と経験が必要です。親が「聴く」姿勢で寄り添うことと同時に、「待つ」という関わり方も非常に重要になります。

「待つ」とは、親が先回りして問題を取り除いたり、すぐに解決策を与えたりしないということです。子どもが自分自身で状況を整理し、感情と向き合い、時には失敗を経験しながら、次の一歩を踏み出すプロセスを見守る姿勢です。これは、親にとって時に非常な忍耐を要するものです。子どもが苦しんでいる姿を見るのは辛く、早く楽にしてあげたいという思いに駆られることもあるでしょう。

しかし、子どもは葛藤を乗り越える過程で、問題解決能力、レジリエンス(困難から立ち直る力)、そして自分自身の力への信頼感を育んでいきます。親がすぐに答えを与えてしまうと、子どもは「自分には解決する力がない」「親に頼ればいい」と感じてしまうかもしれません。

「待つ」間も、親は完全に何もせずにいるわけではありません。子どもが困った時にいつでも相談できる存在であること、物理的な安全や心の安定を支える土台であること、そして何よりも、子どもの存在そのものを肯定するまなざしを向けることが、親にできる大切な役割です。子どもが求めてきた時には、一方的なアドバイスではなく、「どうすればいいと思う?」「いくつか方法がありそうだけど、どんなことが考えられるかな?」といった、子ども自身が考えるのを助ける問いかけをすることも有効です。

親自身の経験を振り返る

私たち親自身も、子ども時代や思春期に様々な葛藤を経験してきたはずです。友達関係、勉強、進路、自分自身への疑問など、その形は異なれど、悩んだり、立ち止まったりした経験があるのではないでしょうか。当時の自分が、親や周りの大人にどうして欲しかったのか、あるいはどう関わってもらって嬉しかったのか、逆にどう関わられて嫌だったのかを振り返ってみることは、今の子どもへの寄り添い方を考える上で示唆を与えてくれることがあります。

もちろん、時代も環境も異なりますから、私たち自身の経験がそのまま今日の子どもに当てはまるわけではありません。しかし、葛藤を抱える内面的な辛さや、誰かに理解してもらいたいという気持ちは、普遍的なものかもしれません。親自身の経験を、子どもへの共感の糸口とすることができるのです。

共に成長する視点

学齢期の子どもが葛藤と向き合う過程は、親自身もまた、子育てのあり方や子どもとの関わり方について深く考える機会となります。すぐに「解決」できない状況を受け入れること、子どもの力を信じて「待つ」こと、そして自身の不安や焦りといった感情と向き合うことは、親自身の内面的な成長にも繋がるのではないでしょうか。

お子様が抱える葛藤は、その子だけのものではありません。多くのご家庭で、形は違えど、子どもたちは様々な壁にぶつかり、乗り越えようとしています。他の親御さんが、お子様のどのような葛藤に、どのように「聴き」「待つ」ことで寄り添っていらっしゃるのか、経験を分かち合うことで、新たな視点やヒントが得られるかもしれません。

学齢期の子どもが葛藤を通じて育む力は、将来、彼らが社会の中で困難に立ち向かい、自分らしく生きていくための大切な土台となります。親の「聴く」と「待つ」という静かな寄り添いが、子どもたちの内なる力を引き出すことに繋がるのだと考えます。