学齢期の子どもの目標設定:親のサポートと自律を育む視点
学齢期の子どもの目標設定:親のサポートと自律を育む視点
学齢期に入り、子どもたちは身体的にも精神的にも著しい成長を遂げます。自分自身の興味や得意なこと、あるいは苦手なことにも向き合い始め、将来について漠然と、しかし確実に意識を持つようになる時期と言えるでしょう。この大切な時期に、子どもが「目標を持つ」こと、そして「その目標に向けて自分自身で考え、行動する」経験は、その後の人生において非常に重要な自律性や自己肯定感を育む土台となります。
私たち親も、自身の経験を振り返れば、若い頃に何かしらの目標を持ち、それに向かって努力した経験があるかと思います。その過程で得た達成感や、あるいは目標を達成できなかった時の学びは、今の自分を形作る上で少なからず影響を与えているのではないでしょうか。学齢期の子どもにとっての目標設定は、大人のそれとは異なりますが、その経験を通して得られる学びの価値は計り知れません。
では、学齢期の子どもが目標設定に取り組む際に、親はどのように関わることができるのでしょうか。今回は、子どもの自律を尊重しつつ、親として適切なサポートを行うための視点について考えてみたいと思います。
なぜ学齢期に目標設定が大切なのか
学齢期は、学習面においても生活面においても、子ども自身が主体的に物事に取り組む機会が増える時期です。目標設定は、このような主体性を育むための有効な手段となります。
- 自己肯定感の向上: 自分で目標を決め、それを達成できたという経験は、大きな自信となり、自己肯定感を高めます。目標がたとえ小さくても、自分でやり遂げたという事実は子どもにとって重要な成功体験となります。
- 学習意欲や課題解決能力の向上: 目標があると、その達成のために何が必要かを自分で考えるようになります。例えば、「漢字テストで良い点を取る」という目標があれば、自然と「どうすれば覚えられるか」「どのくらい勉強すれば良いか」といった具体的な方法に意識が向かいます。これは学習意欲の向上に繋がり、自ら課題を見つけて解決していく能力を養います。
- 自律性の促進: 親から与えられた目標ではなく、自分で考え、納得して設定した目標に向かう過程は、子ども自身の「自分で決める力」「自分でやり遂げる力」を育みます。これは、将来社会に出た時に必要となる自律性の基礎となります。
目標設定は、単に「〇〇ができるようになる」といった結果だけでなく、目標に向かう「過程」で多くの学びと成長があることに価値があります。
子ども自身に目標を設定させるための親の関わり方
目標設定において最も大切なことは、それが「子ども自身の目標である」という点です。親が一方的に「これをやりなさい」「この目標を達成しなさい」と押し付ける形では、子どもの主体性や意欲を損なう可能性があります。
親ができることは、子どもが自分自身と向き合い、自分の声に耳を傾け、内側から湧き上がる「こうなりたい」「これをやってみたい」という気持ちを見つける手助けをすることです。
- 対話を促す: 子どもが何に興味を持っているのか、どんな時に楽しいと感じるのか、どんなことを頑張ってみたいと思っているのか、日頃から丁寧に耳を傾ける機会を持つことが大切です。例えば、「最近、〇〇についてよく調べているね。何か興味があるの?」「△△をしている時、すごく楽しそうだね。もっと深めてみたいと思うことはある?」といった問いかけから、子どもの内なる声を引き出すことができます。
- 選択肢を示す(ただし強制しない): 子どもが目標を持つイメージが湧かない場合、親の経験や知識から、いくつかの選択肢や可能性を示唆することは有効です。しかし、あくまで「こんなこともあるみたいだよ」「こういう考え方もあるかもしれないね」という提示に留め、最終的に子ども自身が「これだ」と感じるものを見つけられるようにサポートします。
- 大きな目標を小さく分ける手伝い: 例えば「算数で一番になる」という大きな目標を持った場合、すぐに達成するのは難しいかもしれません。親は、「そのためには、まず計算ミスをなくすことから始めてみようか」「教科書のこの単元をマスターすることを目指してみるのはどうかな」といったように、達成可能な小さなステップに分解する手伝いをすることができます。この際も、親が指示するのではなく、「どういうステップを踏めば、その目標に近づけると思う?」と問いかけ、子ども自身に考えさせることが重要です。
- プロセスを重視する姿勢を示す: 目標達成ももちろん素晴らしいことですが、目標に向かって努力する過程、そこでの学びや発見に価値があることを親自身が理解し、子どもにも伝えることが大切です。「結果も大切だけど、〇〇さんが一生懸命考えて取り組んでいるその時間が、きっと役に立つと思うよ」といった声かけは、子どもが結果に囚われすぎず、過程を大切にする心を育みます。
目標達成に向けたサポートと失敗からの学び
目標を設定したら、次はそれに向かって歩みを進めることになります。この過程でも、親の適切なサポートが不可欠です。
- 具体的な行動計画のサポート: 設定した目標に対して、「いつ」「何を」「どのくらい」行うのか、子どもが具体的な行動計画を立てられるようにサポートします。必要であれば、計画の立て方を一緒に考えたり、壁に貼れるチェックリストを作ったりするのも良いでしょう。
- 進捗を定期的に確認する: 一緒に決めた目標について、定期的に「どうかな?」「順調に進んでいる?」と声をかけ、子どもの状況を把握します。しかし、これも「監視」ではなく、あくまで「関心を持っているよ」「必要があればいつでもサポートするよ」というメッセージとして伝わるように配慮が必要です。
- 頑張りを認め、励ます: 目標に向かって努力している子どもの姿を見たら、結果に関わらずその頑張りを具体的に認め、言葉で伝えましょう。「毎日欠かさず練習を続けているね、すごいと思うよ」「難しい問題にも粘り強く取り組んでいるね、その姿勢が素晴らしいよ」といった具体的な賞賛は、子どものモチベーション維持に繋がります。
- 失敗や挫折への寄り添い: 目標に向かう過程で、必ずしも全てがうまくいくわけではありません。計画通りに進まないことも、目標達成が難しいと感じることもあるでしょう。そんな時こそ、親の出番です。失敗を責めるのではなく、「どうしてうまくいかなかったんだろうね?」「次にどうすれば良くなるかな?」と、子ども自身が原因を考え、次に繋げるための問いかけを行います。必要であれば、目標や計画の見直しを一緒に検討することも、大切な学びの機会となります。失敗は悪いことではなく、学びのための貴重な経験であるという姿勢を親が見せることが重要です。
親自身の経験を共有する価値
私たち親も、これまでの人生で様々な目標を立て、成功や失敗を経験してきました。子どもが目標設定や達成に悩んでいる時、親自身の過去の経験を話して聞かせることは、子どもにとって大きな示唆や勇気を与えることがあります。
「お父さん(お母さん)も、若い頃に〇〇という目標があったんだけど、実は△△なことで苦労したんだ。でも、そこからこういうことを学んで、次に活かすことができたんだよ。」といったように、成功談だけでなく、失敗談やそこからどう立ち直ったかといった話は、子どもが現実的な視点を持ち、困難に立ち向かう力を育む助けになるでしょう。ただし、これはあくまで「一つの経験談」として語り、子どもに「親のようにしなければならない」というプレッシャーを与えないよう注意が必要です。
まとめ
学齢期の子どもにとっての目標設定は、単なる学力向上や特定の技能習得のためだけではなく、自分自身を知り、自分の力で未来を切り拓いていくための大切なステップです。親は、子ども自身が内なる声に耳を傾け、自ら目標を見つけられるよう対話を促し、目標達成に向けた過程で必要なサポートを行い、そして何よりも、その頑張りやそこから得られる学びを肯定的に見守る存在でありたいものです。
もちろん、全ての子どもがスムーズに目標設定に取り組めるわけではありませんし、親の関わり方も一つではありません。私たち親も、試行錯誤しながら、子どもと共に学び、成長していくものだと思います。
学齢期のお子様をお持ちの他のご家庭では、お子様が目標を持つことについて、どのような考えをお持ちでしょうか。また、どのように関わっていらっしゃるのでしょうか。それぞれの家庭での経験や工夫は、きっと他の親御さんにとって大きな参考になることでしょう。