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学齢期の子どもの質問力・思考力を育む:親ができる日常の関わり方

Tags: 学齢期, 思考力, 質問力, 家庭教育, コミュニケーション, 対話, 探究心

学齢期に入り、お子さまの学びの範囲は学校生活を中心に大きく広がっていきます。幼い頃には「これなあに?」と頻繁に投げかけられた質問も、この時期になると形を変え、あるいは一時的に減ることもあるかもしれません。しかし、この学齢期という時期こそ、単なる知識の習得を超え、自ら問いを立て、深く考える力、すなわち「質問力」や「思考力」を育む上で非常に重要な時期であると私たちは考えています。

経験豊富な親御さまであれば、これまでの子育てやご自身の社会経験を通して、答えが一つではない問いに直面したり、情報を鵜呑みにせず吟味することの重要性を実感されていることでしょう。変化の激しい現代社会において、子どもたちが自らの力で課題を見つけ、解決策を探り、未来を切り拓いていくためには、この質問力と思考力が不可欠になります。

では、私たちは家庭でどのように子どもたちの質問力と思考力を育んでいけば良いのでしょうか。

学齢期に「質問力・思考力」が重要となる背景

学校の授業では、体系的な知識を学びます。しかし、与えられた情報を理解するだけでなく、その背景にある仕組みや、他の情報との関連性を考えることで、学びはより深まります。表面的な理解に留まらず、「なぜそうなるのだろう」「他の考え方はないのだろうか」と問いを立てる力が、複雑な問題を読み解く基盤となります。

また、インターネットやSNSを通じて膨大な情報が日々飛び交う現代において、玉石混交の情報の中から信頼できるものを選び取り、批判的に検討する力は、子どもたちが安全に、そして主体的に社会と関わっていくために必須のスキルです。与えられた情報をそのまま受け取るのではなく、「これは本当だろうか」「他の意見はどうだろう」と立ち止まって考える習慣が大切になります。

将来、子どもたちがどのような道を選ぶにせよ、未知の課題に直面し、解決策を見出していく場面は必ず訪れます。既存の知識を応用し、状況に合わせて柔軟に思考する力、そして困難な状況でも諦めずに問い続け、可能性を探る探求心は、どのような分野においてもその子の可能性を大きく広げる力となるでしょう。

家庭でできる具体的な関わり方

学齢期の子どもの質問力と思考力を育むために、家庭で実践できることはいくつかあります。特別なことをする必要はありません。日々の生活の中での親子の対話を少し意識することから始められます。

1. 子どもの「なぜ?」「どうして?」を歓迎する雰囲気作り

もし子どもが素朴な疑問を口にしたとき、忙しさから「後でね」と流してしまったり、すぐに正解を与えてしまったりすることはないでしょうか。もちろん状況にもよりますが、できる限り子どもの疑問に耳を傾け、「面白いことに気がついたね」などとポジティブな言葉で返すことで、子どもは安心して質問できるようになります。また、すぐに答えを与えるのではなく、「あなたはどう思う?」「どうしたら分かるかな?」のように、一緒に考えたり、調べるプロセスを促したりする問いかけを返してみることも有効です。

2. 様々な出来事について「どう思う?」と尋ねる習慣

ニュースで見た出来事、読んだ本の内容、学校であったことなど、様々なことについて「それについて、あなたはどう思う?」と子どもの意見を尋ねてみてください。「良いことだと思う」「嫌だな」といった単純な感想だけでなく、なぜそう思ったのか、他にどんな考え方がありそうか、といった思考のプロセスを引き出すような対話を心がけます。多様な意見があること、一つの視点だけでなく多角的に物事を見ることの面白さに気づくきっかけとなるでしょう。

3. 情報との健全な向き合い方を共に考える

インターネット検索やSNSは、子どもたちの世界を広げる便利なツールですが、同時に不確かな情報も多く存在します。テレビやネットニュースを見たとき、読んだ本の内容について、「この情報はどうしてそう言っているんだろう?」「本当にそうなのかな?他の考え方もあるのかな?」と、一緒に疑問を持つ視点を示してみましょう。鵜呑みにせず、複数の情報源を確認することの大切さなどを、子どもと一緒に考える機会を持つことが重要です。これは、情報リテラシーを高め、自律的な情報判断能力を育むことに繋がります。

4. 日常の小さな「なぜ?」を学びの機会にする

料理中に野菜の色が変わる仕組み、街で見かけた看板の由来、天気予報についてなど、日常生活の中には「なぜ?」がたくさん潜んでいます。これらを単なる雑学で終わらせず、「どうしてだろうね?一緒に調べてみようか」と子どもを巻き込むことで、身の回りの世界への探求心を刺激し、自分で問いを立て、調べるという学びのサイクルを体験させることができます。

5. 親自身の「考えるプロセス」を見せる

親も完璧な存在ではありません。分からないことや判断に迷うことも当然あります。そのような時、「お父さん(お母さん)も、これについてはよく分からないな。どういうことだろうね」「こういう時は、いくつか考えられる可能性があるけど、どれが一番良さそうかな」などと、親自身が考えたり、調べたり、試行錯誤したりするプロセスを子どもに見せることも大切です。親のそのような姿は、子どもにとって「分からなくても考えて良いんだ」「調べることは面白いんだ」という安心感や学びへの意欲に繋がります。

経験豊富な親だからこその視点と難しさ

幼少期の子育てを経験されてきた親御さんにとって、学齢期の子どもが以前よりも複雑な思考を巡らせていることに気づく場面も増えていることでしょう。子ども自身の中に芽生え始めた論理的な考えや、独自の視点を尊重することは、一方的に知識を与えるよりも難しさを伴います。

つい「正解」を教えてしまいたくなる気持ちや、遠回りな子どもの思考プロセスに焦りを感じることもあるかもしれません。しかし、大切なのはすぐに答えにたどり着くことではなく、問いを立て、情報を集め、考えを巡らせるというプロセスそのものです。親御さん自身のこれまでの経験、例えば仕事での課題解決や、プライベートでの選択の際に、どのように考え、判断してきたかといった経験知は、子どもの思考プロセスに寄り添い、必要なヒントやサポートを提供するための貴重な視点となるはずです。

焦らず、長期的な視点で、子どもが自らの頭で考える機会を意図的に作っていくこと。そして、子どものユニークな発想や疑問を面白がるゆとりを持つことが、この時期の子どもの質問力・思考力を育む上で鍵となります。

まとめにかえて

学齢期の子どもの質問力と思考力を育むことは、彼らが将来、不確実な時代をしなやかに生き抜くための確かな土台を築く営みです。これは、特別な教材や習い事だけで完結するものではなく、家庭での日常的な対話や関わり方の中で育まれていきます。

お子さまの「なぜ?」に耳を傾け、共に考え、探求する姿勢を促すこと。それは、子どもに思考の道具を手渡すだけでなく、親自身も新たな発見や学びを得る機会となるでしょう。他のご家庭では、どのように子どもたちの「考える力」を育む工夫をされているでしょうか。それぞれの経験を持ち寄り、情報交換することで、新たなヒントが見つかるかもしれません。

この記事が、皆さまのご家庭で、子どもたちの「考える力」を育む対話のきっかけとなれば幸いです。